「毒」がなくてはつまらない  「蜜」がなくては諭しめない  「骨」がなくては意味がない

Opinion|2022/07/01|木村浩一郎 

北方ジャーナル 創刊50周年に寄せて
週刊文春より怖い北方ジャーナル

 格闘技の世界でも任侠の世界でもそうだが恫喝するようなタイプの人だけが怖いのではない。人柄が良さそうで物腰柔らかな人にも、強く怖い人がいるのである。
 週刊誌の世界では『週刊文春』の一人勝ちが続いているが、北海道には『北方ジャーナル』という、たいそう読み応えがある月刊誌がある、などと雑談していたときだった。
 もし、自分が不祥事を書かれる側になったとしたら。「文春よりも、北方ジャーナルのほうが嫌だなあ」と、僕は冗談半分に言ったことがある。誰でもプライバシーを暴かれるのは嫌である。まして影響力のある雑誌では書かれる側の被害も甚大だ。それでも、僕は北方ジャーナルのほうが怖い。プライバシーを身ぐるみ剥がすより、疑問を解きほぐそうとするような執拗な相手のほうが、むしろ怖いという認識があったからだ。

 工藤年泰さんや小笠原淳さんのような、物腰柔らかくて飄々として、淡々と記事を書く人にはかなわない。
 20年ほど前、小笠原さんに初めて会ったときには、まさにコロンボだと思った。1970年代から80年代にかけて日本でも放送された米国ドラマ『刑事コロンボ』。主役のコロンボはヨレヨレのコートを着て愚鈍で無害そうなキャラである。犯人らは、半ば彼を見下しているうちにアリバイを崩され破滅の道を転落していく。コロンボタイプの記者には、横柄な態度や開き直りが仇になる。

 『北方ジャーナル』が報道を続けてきたテーマに道警の不祥事がある。警察官も人の子なので不祥事を取り上げればいとまがない。問題なのは事件が起きた後の対処だ。道警の公開した文書の主要部分が黒塗りにされていた。「身内に甘い」と言われても仕方がなく不祥事を減らす効果も甚だ疑問だった。警察官の飲酒運転やひき逃げは問答無用のはずで、僕などは「氏名を公表しろ、懲戒免職にしろ、税金を返せ」などと大声で叫ぶしか能がない。
 しかし『北方ジャーナル』は何ページにもわたって、黒塗り文書を掲載した。この度量、手法には驚いた。
 北海道だけではもったいないと、僕の会社でも、この連載記事を単行本として出版させてもらった。

 海千山千の者たちから北海道の治安を守っているのは、まさしく道警に違いない。その一方で、自らの行為を自制できる、真に「優秀」で「士気の高い」警察官を守っているのも、実はこういった雑誌の記事なのである。
 創刊50周年おめでとうございます。

2022.7 THE HOPPO JOURNAL


北方ジャーナル


  • 『見えない不祥事』(著者/小笠原 淳)詳細(ここ
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