「毒」がなくてはつまらない  「蜜」がなくては諭しめない  「骨」がなくては意味がない
「毒」がなくては詰まらない 「蜜」がなくては愉しめない 「骨」がなくては意味がない
LEADERS NOTE
「毒」がなくては詰まらない 「蜜」がなくては愉しめない 「骨」がなくては意味がない

【東京新聞 2012年5月23日朝刊一面より】


なぜ社会は息苦しいの 17歳の叫び 半世紀前の詩が問う

半世紀前に十七歳で亡くなった女子高生、高岡和子さんの詩と随想などを集めた「さようなら十七才 海と心の詩─わたくしはどこへ行くのでしょう」が、リーダーズノート出版から刊行された。
若いころ、高岡さんの遺作を集めた本に魅せられた編集者が、その本を出すきっかけをつくった人を捜し当て、遺作を再び世に送り出した。社会への息苦しさや孤独をつづった言葉は、今も色あせていない。(岩岡千景)

300編超す遺稿
高岡さんは幼い頃から詩作を始め、中学生の時から亡くなるまで、自らの孤独感と苦しみや悲しみ、喜びなどを、詩にしてノートに書いていた。
高校二年の終わりの一九六九年二月、創作や生活の苦悩から、神奈川県の湘南海岸で投身自殺。書き残していた三百編以上の詩が亡くなった後に見つかり、高岡さんの兄の幼なじみの国重光熙さんらが、遺稿集「雨の音」を自費出版した。
遺稿集に収録された詩がその後、同人誌に投稿されて編集者の目に留まり、六七年、詩に随想を加えた「さようなら十七才 若き詩人の手記」が大和書房から刊行された。本はベストセラーとなり、歌手のジュディ・オングさんが高岡さんをしのぶ「さようなら17才」という曲を歌い、テレサ・テンさんが台湾でカバーするなど反響を呼んだ。
当時、作家の伊藤整は高岡さんを「ものをよく感ずるということは、自分を傷つけること」「傷つく人の悲鳴のように、この人の詩の各行は書かれている」と評している。

リアルな言葉
リーダーズノート出版書籍編集部の木村浩一郎さん(五一)はその本を二十代の時に古書店で入手。遺稿集と高岡さんの痕跡を探したが、わからないまま時が過ぎた。だが今年に入り偶然、国重さんの名をネットで見つけ、連絡を取って遺稿集を手に入れ、詩と随想を編みなおして今回の本にまとめた。 木村さんは「鋭敏な感性は、同じように若くして亡くなった詩人で画家の山田かまちを思わせる。世間と折り合えない苦しみをつづった詩や文はリアルで、社会に息苦しさを感じている多くの人の共感を得るだろう」と話す。 現在七十歳の国重さんは「高岡さんとは家族ぐるみの付き合いで、亡くなった時に高岡さんの母親から詩を見せられ、遺稿集を作った。偶然と奇跡が重なって彼女の詩が再び世に出ることは驚きで、うれしい」と話している。

孤独
夜霧のなかに 高架線が きえるところに それはある 石の壁にうつった 私の影の中に それはある (高一・十月)

雨の音
ポトンとおちた瞬間に 心もいっしょにふるえるような 雨の音 孤独を音にしたら こんなふうになるだろう (中三・六月)
LEADERS NOTE
「毒」がなくては詰まらない 「蜜」がなくては愉しめない 「骨」がなくては意味がない