書窓
著者は大学で教鞭をとる情報工学の専門家であり、現代思想評論家でもある。今や、国を筆頭に世を挙げてITの進歩と普及に喝采が送られ、いち早くより新しいモノを手に入れようとの教唆が続く。
本書は、そんな「牧歌的」に過ぎる社会に対し、冷静に立ち止まり、そもそもネットの世界がどのような構造で、かつてない利便性と引き換えに人々と社会から何を喪失させているのかを、丹念に説き起こしたものだ。
ネットは、要するに「増幅装置」だと著者は言う。それは格差も増幅させ、孤独や悪意も増幅していく。
さらに知性や精神、良心や知識の「汚染装置」であり、事実認識や価値観、正義の「偏向装置」である、と。
携帯端末によって誰もが手軽につながる一方、些細な嫉妬や悪意が一気に増幅されていく。他者化からのウケを狙う言葉を発することが習い性になる。
自分が見たいものだけを見ているにすぎないのに、それが正義であり世界のすべてだと錯覚してしまう。
著者はネット社会に進行する精神の〝劣化〟を懇々と語る。しかし同時に一貫して「私たちの内部」の問題としてこれを見つめ、対処を模索していく。本来「声」とは私的な空間においてのみ存在するものだという著者の指摘は、ネット社会がはまり込んでいる錯誤から目を覚まさせるに十分だろう。
高田典明著